カイゼン
トヨタ生産方式
2019.10.05
カイゼンの基本② 掃除は心を磨く
海外では掃除は専任スタッフの仕事
5Sで「ムダが見やすい職場をつくる」ためには、「整理・整頓」を行います。期限を決めて「不要なもの」を捨て、「必要なもの」をすぐに取り出せるように「表示する」ことが基本となります。
そしてその基本の2Sを継続して掃除、清掃、清潔の5Sにつなげるには、「掃除」を行うことがカギになります。日本では小学校から掃除をしているため、「仕事が終わったら掃除をして帰る」ことは当たり前だという認識があるのですが、海外では普通ではありません。欧米では、掃除は移民やて低所得者の仕事になっており、「彼らの仕事をとることになるから」といって掃除をしませんし、「そんなことは私がするようなことではない」と思われています。
海外の人が日本にカイゼンを学びに来た時に、よく「日本は道路がキレイだ」と言われました。はじめは「なぜこんなこと言うのだろう」と思ったのですが、毎回言われるので不思議でした。しかし海外に行くとその意味が分かります。国によっても異なりますが、道路にゴミが散らかっていることは多く見られます。私達は自分で掃除をする習慣があるため、家の中だけではなく、家の周りや積極的に道路のゴミを拾う方が多くいます。
そのため、現場の掃除も作業者が自ら行うことが普通になっています。
5Sを継続するカギは「掃除」
掃除をすることで、ごみに気づくことになり、その結果「気づく」力が身につきます。逆に掃除をしない人、ゴミを床に捨てても平気な人はゴミに気づかない「気づく力が少ない」人と言えるでしょう。
小さなごみを見つけて取り除く掃除。小さなムダを見つけて取り除くカイゼン。掃除を行うことが清潔な職場をつくり、継続することが躾につながるのです。掃除を行う職場では、不要なものがたまることがないため、整理ができている状態が維持できます。さらに定位置に定品をしまうこともできるようになるので、整頓も継続されるでしょう。
5Sを続けて定着させるには、掃除をトコトン行うことが大切なのです。
床のゴミが1/10に
製造業D社にカイゼンに行ったとき、床にゴミが目につきました。そこでカイゼンを止めて「これから床を掃こう」とカイゼンメンバー全員で床を掃除しました。集めたごみを計ると、600gもありました。それから毎日掃除をしては重量を計ってもらいました。3ヶ月たち、やっと30gを切るようになりました。ここまで少なくなると、床に目立ったごみは見当たりません。ほうきで掃くのもすぐに終わります。
重量を計る前からも、現場では毎日掃除をしていたはずでした。しかしマンネリになり「これぐらいでいいか」「少しぐらいゴミが落ちていても問題ないだろう」という気持ちの油断が生まれていました。そうすると設備の故障が増えて修繕費が増える、機械停止が増えるといったことがおこるようになりました。
掃除は気づく力を高める
しかし床のごみがすくなくなり、掃除力が上がって「気づく力」が増えると、機械設備の維持管理も守られるようになりました。それまでも設備の定期点検は行われていたのですが、機械の裏にゴミが落ちていても放置していた状態でした。つまり「気づく力」が低かったため、ポンプから液が漏れても放置して、故障を速め、修繕品が増えていました。しかし機械の裏のゴミも掃除するようになったことで、異常が目につくようになり、「液が漏れているから対処しよう」と早めに処置をするようになり、ポンプの故障が減りました。
ゴミがなくなることで「ゴミに気づく力」が増した結果、「気づく力」が現場の人達についてきたのです。
キレイだと汚さなくなる「壊れ窓理論」
かつてニューヨークは強盗・殺人が多く、「夜は一人で歩くな」「地下鉄には乗るな」と聞いていました。しかし今は違います。安全な街になりました。ジュリアーニ市長の時に、「壊れ窓理論」を取り入れ大きく変わったのです。地下鉄の落書きを30億円かけてキレイにしました。さらに道路で停車する車を掃除してチップを強要する軽犯罪を集中的に止めさせました。すると「何で殺人犯を捕まえるのに警官を増やさないんだ。落書き、洗車チップなんて、ちっぽけでよくならない」と批判の声が多く上がりました。
ニューヨークが導入した壊れ窓理論によると、誰も住んでいないビルがあってもキレイなままだが、誰かが1枚ガラスを割ると、次々にガラスが割られ、落書きされてついには廃墟になります。そのきっかけはたった1枚のガラスであり、1枚もガラスが割られなければキレイなまま維持されます。ガラスが1枚割れた時にすぐに直せばキレイな状態であり、キレイなところは人は汚しにくいということです。この理論を犯罪に当てはめると、始めは落書き、洗車チップ強要といった軽犯罪者が、次は麻薬に手を染める、そして強盗、ついには殺人と少しずつ窓が割られるように、少しづつ重犯罪に手を染めていく。重犯罪者をなくすには、遠回りのようで実は軽犯罪をなくせば、重犯罪にステップアップする人がいなくなる、そこで軽犯罪者をなくすことに資源を集中させたのでした。
結局はこの壊れ窓理論がが正しかったことは、安全な街になったニューヨークを歩けば誰でも気づきます。
掃除をすることは、この壊れ窓理論と同じで、小さなごみを無くすことでムダをが発生しにくい職場にすることにつながるのです。
「ゴミを捨てる人よりも拾う」「ムダに気づき、すぐ取り除く」カイゼン仲間が一人でも多く増えることを願っています。